2023年


ーーー10/3−−−  セットオール・デュース


 
アジア大会の卓球の試合を観た。日本の選手ばかり応援するのは、なんだか度量が狭いような寂しさを感じるが、やはり私も日本人だから仕方ない。しかも、上手い具合に得点を重ね、一方的な展開になると、安心して観ていられる。素人はそんなもの、要するに、勝ち負けだけである。だが、専門家の見方は違うということを、知らされた事がある。

 次女は小学生の一時期、熱心に卓球をやっていた。その指導者たちの中に、元一流選手で、全日本のメダルをいくつか所持している人がいた。その人曰く「一方的な試合なんか、見ても面白くない。卓球で面白いのは、セットオール・デュース(ジュース)からだ」

 セットオールというのは、それまで両者の取ったセットの数が同じであり、あと1セット取った方が勝ちとなる状態を言う。それでさらにデュースまで行くと、セットオール・デュースとなる。デュースだから、続けて2点取らないと終わらない。1点を取ったり取られたりを繰り返して、延々と続くこともある。両者ともに勝利目前の状態だから、もの凄いプレッシャーと緊張感がある。そんな息詰まるような試合のかけ引きが、一番面白いのだそうである。

 おそらくご本人も、過去に数限りなくそのような修羅場を経験してきたのだろう。それを踏まえて、このような達観に至ったものと思われる。私などがそのような状況に直面したら、逃げ出したいような気持になるだろうが、それを面白いと言ってのけるタフさが、この人にいくつものメダルをもたらしたに違いない。




ーーー10/10−−−  コーヒーの飲み方


 
サイクリングを共にするため、友人がやって来て、我が家に泊まった。翌朝、自家製パンの朝食をとり、その後コーヒーを出したら、彼は砂糖とミルクを所望した。それを聞いて私は嬉しくなり、「やはりコーヒーは砂糖を入れなきゃね」と言った。それに応えて彼は、「ブラックで飲む人が多いけれど、本当は砂糖を入れたいのに見栄を張って我慢しているんですよ、きっと」と返した。

 彼は会社に勤めていた頃、ブラジルへ出張に行ったことがあった。現地の人たちはコーヒーが大好きで、コーヒーが無ければ何も始まらないというくらいだそうである。その人たちが、コーヒーに大量の砂糖を入れる。そんなに入れて溶けるのだろうかと思うくらい入れて、スプーンでグルグル回し、飲むのだそうである。友人は、本場の人たちはそうやって飲んでいると、自分の嗜好の正当性を主張した。

 コーヒーの飲み方も、いろいろあって当然だ。ブラックで飲むことを批判するつもりは無い。問題なのは、もちろん国内での話だが、ブラックで飲む人たちが、砂糖派に対して冷ややかな態度を取ることである。砂糖を入れるなど通の飲み方では無いとか、ブラックでないとコーヒー本来の香りや風味が味わえない、など。自分の好みの飲み方で楽しめば良いだけの事なのに、「これは正しい、あれは間違っている」などと他人のやり方に干渉をする。

 干渉をしないまでも、コーヒーを出す際に砂糖を添えない。つまり、ブラックで飲むことを前提とした出し方をする。そんな場合、こちらは小さい声で「砂糖をお願いします」と言うのだが、それに対して「えっ、ほんとうに?」という反応を示す。人数が多い席では、周囲の視線が集まるのを感じる。孤独である。それが嫌で、我慢をしてブラックでやり過ごすこともある。

 先日テレビの旅番組で、イタリアのトリノの街角が紹介されていたが、コーヒーにソーダ水を入れて飲んでいる人たちがいた。いいんですよ、どんな飲み方をしても。。 




ーーー10/17−−−  蕎麦包丁の柄に滑り止め加工


 
蕎麦包丁の柄の付け替えについては、5月30日の記事に載せた。新しく付けた柄は、握った感じが良く、見た目も拭き漆仕上げが美しかった。しかし、使い始めてしばらくすると、表面があまりにもツルツル滑らかに仕上がっているので、滑るような感触を覚えた。じっと握っているぶんにはそれでも問題無いが、上下に動かして切る動作をすると、ささいな事で微妙にポジションがずれるような気がした。それを避けるために強く握ると、今度は余計なところに力が入って、コントロールに乱れが生じた。

 柄に滑り止めを施そうと考えた。以前のように紐を巻く方法は、もはや使えない。柄が太くなってしまうからだ。そこで、乾漆粉あるいは貝粉を漆で固着させる方法を考えた。そのような方法があることを、ネットで見た事があった。

 ネットで調べても、技術的な詳しい事は分からない。そこで、知り合いの木工家S氏に電話で問い合わせた。氏は、以前輪島の漆工房で働いていた経歴があり、漆塗りに関する知識も経験も豊富である。

 まず、そのような滑り止め加工をしたことがあるか訊ねたら、普通によくやる事だとの返事だった。氏は、貝粉よりも乾漆粉の方を勧めた。貝粉は、紫外線に当たると脆くなり、剥がれることがあるからだと。私が乾漆粉は値段が高いので抵抗があると返したら、自分で作れば良いと言われた。本職の漆職人はそのようにするらしい。ガラス板に漆を塗り重ね、良く乾いたら水に浸す。一晩置くと漆の膜が剥がれるので、水分を飛ばしてから薬研などを使って粉砕し、篩で粒度を揃えて出来上がり。粉砕は、コーヒーミルでも問題無くできると。その他にも、貴重なアドバイスを頂いた。

 氏にいろいろ教えて頂いて、実行に移すことになった。ただし、乾漆粉を自分で作るのはちょっと面倒だし、道具も揃っていないので止めにした。そして購入するとなると、貝粉(アワビ粉)の方が安いので、結局乾漆粉は諦めた。今回の私の用途なら、貝粉で十分だろう。

 既に拭き漆で仕上げてあった柄に、漆を塗り、貝粉をまぶす。そのまま漆風呂に入れて、乾かす。乾燥した状態を見ると、貝粉はまんべんなく付着しているが、触ると剥がれ落ちる粉もあった。貝粉の上からまた漆を塗る。その押さえの漆が乾いた状態では、柄の表面は荒いヤスリのようになっている。それをサンドペーパーでならして、さらに漆を掛ける。そして最後にもう一度漆を塗る。

 一週間かけて漆を乾かし、出来上がった柄を握ってみた。手の平に吸い付くような感触であった。これなら、余計な力を入れずに、蕎麦を切ることができるだろうと思われた。

 実際に蕎麦を切ってみた。切る作業に、特段の変化は見られなかったが、握りやすい事は確かである。今後、使い慣れていくうちに、滑り止め加工の効果が認識されるだろう。

 





ーーー10/24−−−  ウエルカム・バー


 用事で、四国の宇和島へ行った。駅前のホテルを、カミさんがネットで予約した。ビジネスでも家族旅行でも使えるというコンセプトの、チェーンホテルであるが、ここはオープンして間もないようであった。

 天然温泉の大浴場があるというのが宣伝文句であったが、実際にホテルに行ってみて私が気に入ったのは「ウエルカム・バー」。夕方5時から8時まで、一階のラウンジで、無料でアルコールやソフトドリンクが飲めるのである。

 さすがに缶ビールは置いてなかったが、ウイスキーやジン、ウオッカ、焼酎などの酒と、炭酸水、果汁などの割材が用意されている。その場でいくら飲んでも良いし、グラスに注いで部屋に持って行っても良い。ソフトドリンクもいろいろ揃えてあった。

 これは酒好きにはたまらないサービスである。外からホテルに戻り、部屋へ上がる前にラウンジで一杯ひっかける。スマートで、堪えらえない楽しさだ。グラスを傾けながら、ノートパソコンを開いているビジネスマンもいた。また、賑やかに談笑している若者グループもあったし、アルコール抜きでくつろいでいる家族連れもいた。

 このサービスを考案した人は、なかなかのものだと思う。飲み放題と言っても、夕暮れ時のホテルのラウンジで酒をガブガブ飲む人などまずいない。部屋へ持って行くと言っても、せいぜい一杯くらい。だから、ホテル側の出費は大したことはないだろう。それでいて、この太っ腹なサービスのおかげで、ホテルの印象は大幅にアップする。まさに的を得た接客アイデアだと言えよう。

 私はこのウエルカム・バーが大層気に入ったので、自宅でもやってみた。夕方、山仕事から帰宅直後、着替えもせずに、「さあ、ウエルカム・バーでもやるか」と発して、まず一杯ひっかける。

 それに対してカミさんは、「誰もウエルカムなんかしてないじゃない」と、理屈っぽいことを言った。




ーーー10/31−−−  欧米人のおなら観


 
同じ場所で作業をしていた若者が、突然「あっ、すみません」と言った。私が「えっ、何?」と返すと、若者は「おならをしちゃったんです」と答えた。そういえばさっき、「ブー」という音が聞こえたような気がした。

 彼は外国留学の経験がある。すかさず私は「欧米人はおならを恥ずかしいと思わないようだね。女性でも平気でブーッとやるし、見知った男性の中には、わざとおどけて片足を上げてやる人なんかも居たよ」とコメントした。 

 それに対して彼は、「その通りですね」と受けた後、「クシャミなんかの方が恥ずかしそうにしますね。口から出るクシャミとかゲップは、病気がうつる可能性があるからか、神経質な反応をするようです」と言った。

 なるほど、たしかにおならでは病気はうつらないだろう。